見た。実は見たことがなかったんです。
これは傑作という以外に言いようがなかった。
ナチの党員であり実業家オスカー・シンドラーもユダヤ人会計士イザック・シュターンも、ナチスの親衛隊将校アーモン・ゲート少尉も、それぞれ簡単に言い表せない人物であり、それぞれの人間的なありかたみたいなのが物語の筋として絡み合っている。
そして戦争は進み、ユダヤ人の迫害もエスカレートしていく。当然、ドイツは戦争に負けるわけなのだが。そして史実としてユダヤ人は何百万人も殺される。知っている。
「アンネの日記」や「夜と霧」などの文学作品で多少なりとも知っていた気になっていたユダヤ人の受けた絶滅政策の手触りが、映画を見ているうちに全く新しい知識として突然生々しく立ち上がる感じだった。ゲットーという言葉をふと調べて、そもそも歴史的に長い間ユダヤ人がヨーロッパで追いやられてきたことを改めて認識するなどした。
とにかく全編通しての絵の鋭さがある。パンの切れ端に宝石や指輪を詰めて食べてしまう家族、息を殺し聴診器を天井板にあて家中の音を聞き生存者を探すドイツ軍の執拗な感じ、あらゆる隠れられそうな場所にはすでに人がいて「もういっぱいだよ」と追いやられる絶望、大勢のユダヤ人を列車に乗せて荷物は別に送るから心配するなと送り出した後その荷物をまとめて開けて金目のものを選別するその当たり前のような仕事(きちんと丁寧に選分けているのが仕事として真面目にやってる感があり恐ろしいし、宝石や貴金属の鑑定にユダヤ人が使われているのがまた...)、「殺せるのに殺さないのが皇帝の力だ」と説かれたゲートが「許すよ」と気まぐれに救いを与える顛末、シュターンが「今ここで飲みましょう」と酒を飲む場面、そういうシーン一つ一つが強度がある。
また見返したいが、多分一年か二年は見返す力が出ないと思う。ヤバい映画だ。
そして、シンドラーが実在の人物であることにあんまりにも圧倒される。いや、これは圧倒されるとしか言いようがない。監督のスピルバーグがユダヤ系であり、この映画を撮らざるを得なかったという背景も考えてしまう。普段そういうことあんまり関心がないのだけど。
映画を見終わってから、気になって本棚から「夜と霧」を探したのだが見つからない。ええ。まさか捨てたり売ったりしたということもないと思うのだが...。