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日記だよ

知らない街に引っ越した。知り合いも親戚もいない。なんなら街の名前をまだ漢字で書けない。

大きな街だ。イメージで言うと八王子とか仙台とかそう言う感じ。その少し郊外。郊外なのかな。バスでJRの駅まで二十分くらい。

高いマンションがある。分譲で、築ニ十年くらい。ぼちぼち空室が出始めている。住民の入れ替わりがある。自分も入ってきた組みです。

段ボールなどはまだ片付かない。リフォーム済みで真新しいクロスの貼られた壁に早速カレンダーをピンで止める。

日差しからして昼過ぎ。

妻が衣類とかカーテンが詰め込まれた箱を解体している。冷蔵庫はあるが中身はない。お腹が空いたなと思い、「買い出しに行ってきます」と声をかけて部屋を出る。生返事が後を追ってきて、ゆっくりとしたらドアに挟まれて聞こえなくなる。

廊下は静かだ。内階段でビジネスホテルの内装みたいな雰囲気だ。全部の音が絨毯に吸収されているのではないか。空調のものだと思う機械音が低く聞こえる気がする。両側に同じような扉がずらっと並んでいる。突き当たりがエレベーター。乗り込んで、1Fのボタンを押す。その途端、「あれ、俺何号室に引っ越してきたんだっけ」とわからなくなる。書類に何度も書いたはずなんだが、部屋番号を思い出そうとするも、このマンションの部屋のことではない気がする。(ドアに貼り付けられた部屋番号の絵面が連想されるのだが、どれも以前住んでいた別のマンションのような気がする)

エレベーターホールからロビーへ向かう。エレベーターは四基。低層用と上層用。右と左。振り向いて、あれ、俺はどっちから降りてきたかな。多分左の低層からだと思うんだが。こう言う建物は慣れてないのですぐわからなくなる。これでは家に帰れないじゃないか。いやマジで。

困ったなぁと考えながらロビーを通り過ぎてエントランスへ向かう。薄暗い。ロビーというかなんか駅の待合室みたいな風情になってる。住民の姿はない。管理人室があるが、灯りは消えてる。今日は日曜日だからな。コンビニはマンションのすぐ隣の建物に入っていたはずだ。とりあえず、なんか飯を買ってから考えるといいだろう。心細さは空腹の所以だ。

マンション入り口の自動ドアが開くのを見ながら、鍵も何も持っていないのでは?と気がつく。一度外に出ると、エントランス外側のインターホン的なやつで住民を呼び出して中から開けてもらわないと入れない。そのためにはまず部屋番号が分からないといけない。引っ越したばかりで表札的なものは出してないというか、なんか大半の住人が名前を表に出してないので、そういうものかなと思っていた。これはまずい。このまま外に出るのは愚策だ。

一度ロビーに退散し、持ち物を確認する。いや、その必要はない。なぜなら持ち物を持ってないからだ。携帯電話を持ってきたつもりが持ってなかった。財布はない。小銭などもない。しまった。詰んだ。

小銭をどこかで拾って公衆電話で助けを求めるか。しかし妻の携帯電話の電話番号など覚えているわけはない。自分の携帯電話にかけたところで妻が気付くとは思えない。管理会社に連絡しようと管理人室の扉を叩くが、無人だ。いや誰に連絡しても今俺は「このマンションに住んでいると言い張る身分証も持たない不審者」であり、じゃあ何号室なんですかと言われて答えられず追い出されるに違いない。いかん。どうすれば。

 

というところで汗びっしょりで起きた。夢だ。夜中3時。そこからまともに眠れていない。むー。皆さんも外出する時はせめて身分証とお金か携帯電話は確認するといいでしょう。

結局、俺は何号室に住んでいたのだろう。