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日記だよ

経験から法則らしきものを見つけ出すときに一般化は注意深くやらないといけない

うまくいったことから学習する人、失敗から学習する人がいる。または、「うまくいったことから学習したことを語る人」と「失敗から学んだことを語る人」とでも言えばいいのか。実際のところはどうだかわからないけど、経験から得た教訓について話をする時、そういう表現方法の違いがあるのだなと思ったのでメモしておきます。

いろいろあって採用面接とかよく出るわけです。主にはエンジニア面接です。

自己アピールにこういう文体(今この場で自分の脳内で生成したフィクションです)で書かれる人がいっぱいいる。まあ、自分もこういうノリで書くことはあった気がする。フォーマットに当てはめる気分で書くとこういう文章になる。

これまで私は大規模ユーザーを抱えるWebサービスのバックエンド開発にずっと関わってきました。特に大事にしていたのは、要件について常に最新情報を得ることと、ステークホルダーとの意識のすり合わせを行い、言った言わないの不毛な議論を避けることです。それにより、2020年、2021年と二年連続でプロジェクトMVPに選ばれ、顧客からもプロジェクトリーダーの指名を受けるようになっています。 これらの経験から、私はコミュニケーションの大事さを学びました。開発においてコミュニケーションミスはなによりも危険です。私は常に関わる人間に目を配り、細かくホウレンソウを心がけ、顧客にとって必要な製品を届けるために頑張ります。

これは典型的な「うまくいったことから学習したこと」を書いています。自分の成功体験から成功するためのロジックを組み立てている。「自分はこれをしてうまくいった。うまくいったということは、こういうロジックがあるであろう。これをすることは大事なことである」という流れだと思います。しかしこれは「根回しを大事にして上司から評価されました」とか「ダメなやつを切り捨てて自分で全て実装しました。最後はプログラミング速度が大事であることを学びました」と何も変わらないとも思います。物事を学ぶロジックというか、経験から教訓を引き出すロジックとしては心配になるやつです。

自分はこういう自己アピール文面から「この人はコミュニケーション能力を大事にし、成果にコミットする有能な人物です」というメッセージは特に読み取っていないっぽいです。ただ「どういう経験をするとどういう学習を得る人なのか」ということを気にしている。「ステークホルダーとの調整をして仕事がうまくいったことから、開発には何よりコミュニケーションが大事であると学習した人」という読み方をすると、どうしても以下のような疑念が出る。

  • この人がとりうる選択肢のなかで、ステークホルダーと調整してものごとを進める、という以外のオプションは何があったのだろう

それより他に現実的な選択肢がない状態でそれをやったことは、遂行力やコミットメントの表出ではあると思う。ただ、そこから成功方程式を見つけ出すのは怪しい気がする。

で、たぶんこれは書き方の問題で、実際にはそんなシンプルな話ではなかったんだと思うんですよ。現場ではもっといろいろ混沌としていて、取れる選択肢と取れない選択肢、リスクのあり方、あらゆるパターンの多様さがあり、自分が勝手に想像するシンプルな物語ではないと思うんです。でも、字面からはそう読み取れてしまう。「これをやったからうまくいった。うまくいくために大事なことはこれだと学びました」というふうに読めてしまう。

逆の話もあって、「こういうアプローチをとって大失敗してしまいました。プロジェクトにおいて、避けなければいけないことを学びました」も、失敗したのでこれはヤバいやり方ですと言ってるにすぎない気がして、失敗を繰り返さないマインドは大事だと思うけど一般化の乱暴さは同じくらいだと思うんですよね。

経験からはさまざまな法則が日々見つけ出される。バスはバス停につく直前にいってしまう。パンはバターを塗った側を下にして落ちる。それが自分にとってのジンクス的なもの以上に確からしいと感じたら、本当にそうか、と問い直す必要がある。経験に対してどういう問いかけ直しをする人か、というのが履歴書とか自己アピールとかを眺めるときに気にしていることです。書いてることだけで判断することはしないけど、先入観は生まれます。難しい。過度な一般化と、読み手に洞察を与える飛躍って、文章構造上のつくりはきっと一緒なんですよね。だから基本的には好意的に読んでます。ただまあ、「開発にはコミュニケーションが大事」とか「ステークホルダーと認識ずれを減らすと良いことがある」などは経験から改めて学ばなくてもそりゃそうって話だし、それらが不要だと思っていたとしたら、そこからのギャップを書いてほしいわけです。学びって変化なので、結論ではない。

自分は大学時代にあまり就活をちゃんとやった方ではなく、転職いろいろしてるけど、転職活動をまじめにやった方でもないので(だいたい最初に声をかけてもらったところにふらふらといく)、転職者に偉そうなことをいう立場ではないのだけど、しかし面接をする側として参加している以上、たまにこういうことが気になるんですという情報はインターネットに書いておかないといけない気がした。そういうこと気にしているので、自己アピール書く時は気にしてみると、面接する側が自分タイプだったら刺さります。