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日記だよ

メアリ・ロビネット・コワル「宇宙(そら)へ」上・下

読んだ。まあまあ。最後まで楽しく読めたけど続編絶対読みたいとかではない。

作者は「操り人形師としても活躍し、夫とシカゴに暮らしている」多彩な人。後書きに実際の宇宙飛行士やパイロット、ロケット科学の専門家などが執筆チームに参加していることが書かれている。「[ここにパイロットのジャーゴンを書く]と書いておくとそれっぽい文章に置き換えてくれる」面白い関わり方をしているなと思いました。

内容は1950年台にワシントンを隕石が消し飛ばしたIF世界線の話。コンピュータが発達する前に宇宙開発の機運が高まる。主人公の女性は計算士(計算をするのが専門の人々)として働いているが、やがて宇宙飛行士を目指す女性としてやっていくぞというお話。読み終わるまで気がついてかなったけど、全然完結していない。続きがあります。続きは「火星へ」なのかな。

計算手(けいさんしゅ、英:computer, human computer)とは、電子計算機が実用化される以前の時代において、研究機関や企業などで数学的な計算を担当していた人間のことである。現在では「コンピュータ」と言えば電子計算機を指すが、当時は "computer" という語の成り立ちが表す通り「計算する人間」のことであった。

計算する専門職は実在した職業。

さらに第二次世界大戦中は徴兵によって男性研究者が減ったため、計算手は専ら女性の仕事となった。ENIACの最初の6人のプログラマは、弾道計算のための計算手として雇われていた女性の中から選ばれた。

このあたりの歴史的背景感がある。

全体としては面白いと思った。

上から下まで異人種、ユダヤ教、女性などの差別意識への闘争がひたすら描写されるのと、主人公の女性が旦那とメイクラブ繰り返すのが退屈になってくる問題はある。ある意味平坦というか。主人公は他の人物の目線をめちゃくちゃ気にしていて、「人の目を気にする」属性自体にはストーリー上の必然性はあるのだけど、誰かが誰かを嫌いだとか、誰かが誰かを誇らしく思うだとか、そういう感情的解釈や関係性への解釈の描写がめちゃくちゃ多い。解釈と書いているのは、あくまでも主人公の視点から「この人はこの人のことを嫌いだ」とか「気に入らなく思っている」とか「ショックを受けている」とかそういう解釈をしているから。気持ちの想像の描写が多いのだよね。それから、家族の気持ちを想像するだけで涙が止まらないとか、気に入らない相手だからあらゆるところで当てこすりを言うとか、女性グループで仲違いをするシーンで「私たちは本当の親友になれた」みたいなまとめ方になったりとか、そういう典型的なやりとりが多いのも冗長には感じる。ただ、このステレオタイプさというのは、アメリカの典型的で愛され続けたステレオタイプなんだろうな、という気もするんだよな。これをありふれたキャラクター造形だとして笑うのは多分お門違いなんだろう。ありふれ方の一貫性について、自分が読み取る素養がない。

アメリカ近代史がもうちょっと身近だったら出てくる歴史上の人物、団体、出来事のパラレルワールド具合をもうちっと楽しめたんだろうな。

ただのヒールだと思っていたパーカーさんが実はちょっとツンデレかなと思わせるシーンは良かった。こういう、実力があってお互いに嫌いあってる相手が実はこっちを認めていた、という展開には弱いですね。はい。