ソノラマ文庫とは
2022年現在は存在しない、朝日ソノラマ社から刊行されていたライトノベルレーベルです。当時はライトノベルという言い方はなくて、なんだろう、若者向けエンタメ志向の小説、みたいな分類だったんだろうか。電撃文庫、角川スニーカー、富士見ファンタジアなどに食い荒らされた(言い方)印象があるのですが独特の雰囲気のある作品が多かったと思う。
株式会社朝日ソノラマ(あさひソノラマ)は、かつて存在した日本の出版社。朝日新聞社の全額出資子会社であった[1]。2007年(平成19年)9月30日をもって営業停止し解散した[1]。 「ソノラマ」とはラテン語で「音」を意味する "sonus" と、ギリシャ語で「見もの」を意味する "horama" を合わせた造語である。かつて販売していた「ソノシート」の商標権を取得していた。
ソノシートというのは薄っぺらくて耐久性が低いが安価に作れるアナログレコードと思えば良さそう。自分もあまり知りません。ちょうど世代の切り替わり時期にあたっている。
1970年代から1980年代にかけ、ソノシートは、学年誌の付録として、手回し式蓄音機に近い仕組みのペーパークラフトのレコードプレーヤーとともに配布されていた。
ソノシートのソノラマというのは知ってたけど、学年誌の付録で配られたくらい普及していたのは知らなかった...。自分は1981年生まれなんだけど、物心ついた時点で自宅にはレコードプレーヤーがなかった。テープデッキはありました。
ソノラマ文庫のお薦めポイント
何と比べてお薦めするのかは難しいところだけど、
あまり知られていないが現代に続く影響を与えた作品があったり、
現在も現役でやってるベテラン作家が荒々しい作品を残していたりして面白いです。
さすがに今も現役の人たちは古老っぽい人が多い気はする。
ソノラマ文庫のお薦め作品をピックアップ
ということで入門するためによさそうな作品をいくつか紹介してコメントしていきたいと思います。自分が読んだことのあるものに限定されていますので、やや偏っているのはご容赦ください。
菊地秀行作品
菊地秀行は魔界都市〈新宿〉でソノラマ文庫でデビューしています。
ソノラマ文庫ではいくつか人気の作品系列があり、
電子化された作品も多く入手性は高いと思う。
吸血鬼ハンターDなどは映画化されたりして知っている人も多そう。天野喜孝がイラストをずっと描いています。ソノラマが潰れても粛々と続きの作品はいっていのペースで刊行されている。水戸黄門みたいな安心感のあるシリーズ。
各話完結の作品がめちゃくちゃいっぱいあるのでしょうがないんだろうけど、シリーズとしての着地点はどれもさっぱり見えない。ある日突然、全てを包括する謎のオチがやってきて終わるのだろうな、と想像しながら読んでいる。例えば魔界都市は秋せつらとかメフィスト戦って負けたりはしないだろうし老衰でも死なないし誰かをかばって非業の最期となるかというとそうでもないだろうと思うんだよなあ。かといって彼らのいない魔界都市は舞台としてきっと機能しない。メフィストだったら自分の意思で人類を超越してしまってどっかいくとか、せつらだったら旅に行って帰ってこないとかそういう感じになるだろうし、それをドラマとして盛り上がる感じに持っていけるのかというと菊地秀行はそういう書き手ではないような気がするし...。
と文句もあるのですが、Dは映画DVD買ったりハードカバー全部集めたりする程度には思い入れがある作品ですし、トレジャーハンターシリーズ(エイリアンシリーズ)も大好きですし、魔界都市も同様で、つまり細かいことはいいんだよという。
笹本祐一作品
「最初のライトノベル」として有名な妖精作戦でデビューした笹本祐一もソノラマの看板娘(娘?)でした。現在はロケット追いかけているようです。
- 妖精作戦
- ARIEL
- 星のダンスをおいで
- 裏山の宇宙船
など名作が多いです。ARIELはアニメ化もしていますね。最近だと「ミニスカ宇宙海賊」という作品が「モーレツ宇宙海賊」と改題してTVアニメ・劇場アニメにもなっています。初期の頃の方がスピードがある。押井守版うる星が好きな人には刺さるスラップスティック感があると思う。最近は登場人物にまっとうな人が増えたのでもっと飛ばしていてよいと思うんだけどな〜。
自分のイチオシは女子高生が夏休みに宇宙海賊をやる「星のダンスを見においで」なんですが、思い返すと別にプロットやアイディアに取り立てて独特なものはなくて、やっぱ文章や演出の波長があっていたってことなんだろうなあ。
電子化された作品も多く入手性は高い。だいたいハヤカワで手に入ります。
小川一水作品
少年ジャンプのノベル部門でデビューした小川一水もソノラマで書いてました。異世界ファンタジーとかも昔描いてたんだなあという感慨がある。
近年はSF作家としてポジションが確立している気がしますが当時の作品はド王道って感じの筋書きが多かった。ハイウイング・ストロールは今読んでも古さを全く感じない傑作だと思う。
郵政省はな・・・民営化・分割されてしまったからなあ。それでもトッパイは高校生に公務員を志望させる可能性のある作品だと思うので全国の小中学校に配備すべきだと思う。小川一水は専門職の人間の現場の物語を書くのがとてもうまいので漫画原作とかしてほしい。
天冥のような大長編ではなく単発・短いシリーズが多いので手を出しやすいと思います。どれも面白いのでおすすめ、なんだけど最近はちょっと大人な感じの作品が多い。熱血成分がだいぶ減った。
富野由悠季作品
ご存じの通り富野由悠季は自分でガンダムのノベライズ書いてるんですがだいたいソノラマ文庫にあります。というか当時のソノラマではダグラムとかザブングルとかゴーグとかの小説も刊行されていてなかなかハードな感じになっている。
破嵐万丈シリーズは「ああ、当時はシティー・ハンターとか流行ってたんだなぁ」と思いながら読むものです。
おすすめはできるかはわかりませんが味わいがあります。
秋山完作品
- ラストリーフ〜リバティ・ランド〜ペリペディア〜ファイアストームと続くシリーズ
- 天象儀の星
- 吹け、南の風シリーズ
個人的にめちゃ推しだったのですがあまり電子では手に入らない気がする。懐かしい未来(ノスタルジック・フューチャー)というコンセプトは秋山完によってインストールされました。洗練はされてないんだが、話のポイントはなるほどなって感じに設定されていて、読んでしまう文章を書く人だと思う。俺はもっと支持されてもよかったと思うんだけどな〜。
位置付け的には、電撃文庫における秋山瑞人みたいな存在だと思う。Wikipediaによると「ダブル秋山」という言い方もあるそうである。並べたくなる気持ちはなんとなくわかる。天象儀の星と猫の地球儀がいつもごっちゃになるなどの問題もあります。
彩院忍作品
- 電脳天使
第一回ソノラマ文庫大賞佳作入選作品。らしい。ちゃんと4冊で完結している。
AIを主人公にした小説。やんちゃな男の子とちょっとクールな男の子のバディものです。現代の「ソードアート・オンライン」のエッセンスはだいたい触れられている気がする。P2Pでサーバーが繋がって、その中をAIが転送され実行される世界観が今読んでもすごくよい手触りで書かれている。「創造主」と呼ばれるスーパープログラマーのたくらみとかも、その最期とかもけっこう今風だよね。アニメ化しないかなあ。もちろん電子化はされていない。AIの造形がいいんだよね。ローランドのレフトとライトの考え方の違いとか。
彩院忍はその後何をしているのだろうか。
嵩峰龍二作品
- アドナ妖戦記
- ソルジャー・クイーンシリーズ
ソルジャー・クイーンはSF的に壮大過ぎもせず、身近なところで閉じ過ぎもしないバランスで描かれる宇宙叙事詩的な物語がたいへんよくて、めちゃくちゃ盛り上がるところで最終章の予告があり、上・中と刊行されて下巻で止まっている。ウッウッ。
未完でもよければSFファンタジー群像劇みたいなのが好きな人にはお薦めできるのでぜひ。もちろん電子化などはされていない。
大原まり子作品
- 恐怖のカタチ
- エイリアン刑事
エイリアン刑事(デカ)である。このタイトルだけでかなりぐっとくるけど、敵は犯人と書いてホシと読む。なるほど。中身もSFのトーンでガッツリ異星人バディものの王道である。そして未完。時代を感じさせない、性別や家庭の在り方についてかなりシャープな多様さを描いていると思う。「善意によるハーレム」も今考えるといいよね。子供の頃ピンとこなかったけど。みんな読むといいと思う。面白いし。未完だけど。
加門七海作品
- 人丸調伏令
- 晴明
ホラー作家、エッセイ作家の加門七海も実はソノラマ文庫でデビューしています。デビュー作の人丸調伏令はけっこう攻めた作品だと思っている。ヒロインはツンデレだし・・・。一言主は今風の能力バトルものでいえばかなりチート級で良い。「妖精作戦」とかもそうだけど、デビュー作は全てが詰まってる感じがしますよね。こういう和風伝奇ものは当時けっこう多かった記憶がある。カドカワさんの方面では宇宙皇子とかがあった。個人的に人丸の素性というか性質というかアレには子供心に衝撃を受けたものです。
岡本賢一作品
- 銀河聖船記シリーズ
- 銀河冒険紀シリーズ
- あと何かあったはずだが...
デビュー作なのかな、ディアスの天使からはじまる銀河聖船記は名作で、Kindleで後年買って読み直しました。ただ改めて読み直すと、シュッと小さく綺麗にまとまりすぎているかもしれない。大きな猫とかネズミが喋ったりします。古い作品ではあるけどネタバレもよくないので詳細は避けますが、人類の善性や悪性について極限の判断が必要とされるというモチーフは、決して珍しくもないとはいえ熱いものがありますね。
その他の作品は個人的には銀河聖船記に対して後一歩インパクトが薄かったように思っている。
朝松健作品
- 逆宇宙シリーズ
- 私闘学園シリーズ
逆宇宙シリーズは孔雀王とかそういう絵柄を想像するといいやつで、クトゥルー的な世界観と拳法や格闘技と各種宗教のアレがバトルするアレです。私闘学園は説明が難しい。オカルトSFを混ぜ込んだコータローまかり通るみたいなものだろうか。イラストを島本和彦が書いている。逆宇宙も私闘も電子化されているので入手性は高い。
ニコニコ大百科によると
昨今の小説で良くある「巻末あとがきで、作者と登場人物が会話をする」というパターン。これは、私闘学園が始まりと言われている。
そうなの?
アーサー・マッケンをインスパイアしたペンネームは超かっこいいと思う。脳内で学園忍法帖も朝松健かと思い込んでいたけど藤原征矢だった。
岡田 剛作品
- ゴスペラー―湖底の群霊
これめっちゃ好きなんですがソノラマ文庫の末期で、うまくマーケットに刺さらなかったのか、あまり触れられるのをみない作品です。ソノラマ文庫ではたぶんこの一作のみだと思う。創元社の十三番目の王子も読んだけどあれもよかった。和風伝奇ものとしてすごくすぐれた文体の作家の1人だと今も思っている。
夢枕獏作品
- キマイラシリーズ
まだ続いている。FSSみたいに途中まで進んだ後、装丁などが一新されて一巻から刊行されるという邪悪な展開をしていて不満だったのだが、2022年9月に「完結に向けてやっていくぞ」という話があるらしい。キマイラ終わるのか、そうか。。
これめちゃくちゃ面白いのがPR Timesなんだ・・・っていうところです。
高千穂遥作品
- クラッシャー・ジョウシリーズ
- ダーティ・ペアシリーズ
高千穂遥を忘れていた。アニメも人気だったシリーズ。ハヤカワで出ているので入手はしやすい。電子化もされている。どっちも好きなんだけど、個別の作品はどうも印象が薄い。
後年、ダーティ・ペアFLASHでリメイクされたけど、だいぶ趣が違ってるんだよなあ。子供っぽさをヨシとするように変化してしまった、とでもいうのか・・・。ルパン三世とかにも当てはまる話なんだけど。
千葉暁作品
- 聖刻1092シリーズ
千葉暁も忘れていた! ちばさとしと読む。聖刻シリーズはソノラマでやってたやつはめちゃくちゃ好きだったんですよね。うしおととらのうしおみたいな印象のあるヒーローと巨大メカがあり、歴史と陰謀があり、異世界の風俗のしっかりした描き方があり。メカの機械感がいいんですよ。ああこの世界ではこういう機械があって、機械として認知されているんだな、という感じがあって。
聖刻群狼伝などになってからなんとなく読み進めることができなくなってしまった。黒き僧正編までは間違いなく傑作なのでぜひどうぞ。
なお剣の聖刻は別の作者の別シリーズ。
岩本隆雄作品
- 星虫
- 鵺姫異聞
- ミドリノツキ
あれ、星虫だけだっけ? なってる。ソノラマ文庫作品。新潮で出てた「イーシャの船」の裏番組というおもしろ仕掛けになっている。寡作なSFの作者だけど印象深い作品。(と思ってみたらイーシャの船ものちにソノラマで出ていた)
六道慧作品
しか読んだことないけど好きだった。Switchとかで出てた犬が出てくる和風なゲームとは関係がありません。
世界をまたにかけていろんな出自の人々が前世の因縁で争ったり悩んだりする。Wikipediaからあらすじを拾ってきたが、そうそう、これだよ、という気持ちになりますね。
今より遥か17000年前。アトランティス・ムー大陸を治めていた黄金の大神・ルシフェルは、人間の娘メデュウサに恋し、少年王ダンテとして生きることを選んだ。二人は夫婦となり幸せに暮らしていたが、かつての部下・サタンの裏切りによって大陸は滅亡の危機に陥れられてしまう。もはや逃げ場を失ってしまったダンテは、転生して再び出会うために、愛するメデュウサの意識をはるか未来へと飛ばす。その後を追ってダンテもまた、彼に従う七大天使と呼ばれる大神たちと共に自らの意識を未来に飛ばしたのだった。
巻ごとにフィーチャーされる神というか人物が違っていて、副題が毎回ナントカの大神になってる。諸王の物語みたいな構成で好きなんですよこれが。あと表紙のイラスト好きでした。かっこいい。
鴉紋 洋作品
- カルとブラシリーズ
- 幻妖剣姫伝
カルとブラの造形はタイガー&バニー感があるね。軽ハードボイルドっぽい作風のSFはソノラマにはけっこう多かったんだけどカルブラもその系譜だと思う。よく授業中に読んで笑ってしまって怒られていた。好きなんだが電子化はされていない。
「ハイスピード・ジェシー」も鴉紋洋だとなぜか勘違いしていたがこちらは斉藤英一朗作だった。こういう記憶の混乱がちょいちょいある。
ソノラマ文庫の残念なところ
三つ挙げることができます。
- 新刊で手に入らない
- 電子化されていない
- 未完の作品が多い
まとめ
ということで令和向けソノラマ文庫のおすすめと題して書いてみました。
古さはもちろん、電子化が進んでない、当然絶版なので入手困難な作品もあるなど、いくつか難点はありますが、それさえ除けば令和の読書にも耐えうるライトノベルがいっぱいあるという感想を持ちました。ほかにも「能なしワニ」「かたゆでマック」とか「クトゥルー・オペラ」とかぱっと思い出す名作がいろいろある。「機甲猟兵メロウリンク」の小説版もたぶんソノラマだけだろうと思う。今読むとなにからなにまで厨二病感があって最高な「倒凶十将伝」とか、いろんな立場の王の話をオムニバスみたいに追う「諸王の物語」なども印象深い。「南国戦隊シュレイオー」も個人的にはよかったけどあまり後続展開を見かけなかったなぁ。「ソリトンの悪魔」など単発で面白いSF作品などもある。「どうせおれは全知全能」などは現代のチート系ストーリーの先駆者と言ってもいいのではないか。光瀬龍や竹河聖もけっこう作品を書いていたけど自分はあんまり印象がなかった。逆に赤川次郎いろいろ書いているような記憶があったけど実は作数少なかったりとか。記憶があんまりあてにならない。
梶尾真治や神林長平も忘れてはならぬと思ったけどあれはソノラマ文庫NEXTの方だった。クロノス・ジョウンターとライトジーンはどちらも何度も読んだ大好きな作品です。どちらも電子化されている。安心。
古本屋で緑や白黄の背表紙を見かけたら、ぜひ手にとってみてください。