国書刊行会、未来の文学シリーズ。ディレイニーの全中短編コレクション。
「われら異形の軍団は、地を這う線にまたがって進む」がめちゃくちゃ好きだった。
「おまえさん、なにか自分にとって非常に大事なものを失ったものがあるかね--あまりに大事すぎて、他人にはそれがどんなに大事だか、言う気にもなれないものを? それが失われていく。おまえさんはそれが失われるのを見まもる。そして、やがてはそれは完全になくなってしまう」
全世界において電気っぽいエネルギーの無限供給が実現し、さまざまな(現代における)社会問題が事実上の解決を見た世界において、主人公であるブラッキーさんはエネルギー供給網から離れて暮らすコミュニティにエネルギー送信のケーブルを敷設しコンセントを設置するように働きかける仕事をしている。そこで、ヒッピー的コミュニティを成り立たせているごく弱い力について、コミュニティの中心人物が語る。それはか弱く、現実的な力の前に容易に掻き消されていく。アメリカ先住民族の保護政策みたいなわかりやすい構図に見立てることもできるし、理想を中心としたチームが現実的なさまざまな力により変質しチームを成り立たせていた絆が崩壊していくようなストーリーにも重ねたくなる。
どの中短編もパワーがあり、妙に人間味のある、切れ味のある文体がすごい。