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日記だよ

上橋菜穂子「鹿の王 水底の橋」

読んだ。面白かった。

鹿の王のスピンオフ作品なんだけど、本編で裏主人公であったホッサル先生主演の医療政治ドラマ。なのかな。ミステリや法廷劇という風味もある。医療、文化、政治、宗教、恋愛、身分みたいな要素が丁寧に配置されていて物語とドラマがそれぞれ進んでいく感じがすごい。

比較するのもおかしいんだけど、「アリスとテレス」とか「さよならの朝に〜」で感じた置いてけぼり感とか楽しみにしていた小道具が結局取り上げられなかった感がなくて、大変満足する読み終わりだった。

二時間枠の映像作品と小説の詰め込める展開の量の違いとかそういうのはあるのかも。

タイトルに対する納得感とかさ。映像的にも、モチーフ的にも、そうか、水底の橋がタイトルだったな、と納得するこの感じが。映画だったらここ盛り上げるところ、って思いながら読んだけど、同時に過剰な演出はなくて良いシーンなんだよな。こういうのが好きで小説を読んでるところがある。

映像作品は話の糸が全て纏まる瞬間にクライマックスというか盛り上がりの演出を持ってくることが多いと思うんだけど、小説で本当に好きだな〜って思う奴はそこに時間差がある。本筋の中では別にストーリーの大きな動きがあるわけではないんだけど、自分の中にある、物語を読んでいる側に「今まさに物語の核心が進行している」という興奮とかそういうやつが生まれる時がある。

本作も多分、わかりやすくは終盤の会議が最重要シーンではあるんだけど、読んでる側としてはそこはあくまでも謎解き、種明かしのスリリングかつ爽快な場面であって、ドラマのクライマックスとは異なっていて。

「はい、ここ盛り上がるところ」みたいな音楽と演出があると一発で興醒めみたいなのあるじゃないですか。ないですか。そうですか。

まあ、とにかくそういう気持ちで一気に読めたのでよかったのです。

 

ホッサルは賢いし良い主人公だが恋人ミラルの方が土壇場で覚悟や腹の決め方が一枚上手な感じがするのがまたね。良いよね。

漢字の読み方がちょいちょい自信なくなるのが難点です。